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4・とめられない
毎度の事ながら続いてます。記事一つ飛びに。
えー此処からお読みになられる方の為に申し上げますと今突発的に書き始めたゲン+カカ+サス(この表記がいいのかな)の散文が何故か日記で連載みたいな形になってます。
「続きが見たい」といわれると続くシステムです←すげえ他人任せ

前作は二つ前の記事。
一番最初からお読みになりたい方はこちらからどうぞ。





 ***







空から打ちつける太陽の光と反射する地熱に体力を奪われオレの体はいつになく重たく感じられた。
黒い髪がじりじりと焼けて頭の芯がぼうっと霞んでくる。
紙の手提げ袋を片手に、オレの足は擦り込まれた記憶になぞられながらこの暑さで人もまばらな通りを歩いて行く。
ほぼ無意識の状態のままオレは何度か門を折れてどんどん人気の少なくなる通りに向かって行った。
ふと気付いた其処はもうぐるりと見渡しても視界の中にオレ以外の人間が居ない空間となった。
老朽化の進んだ古い建物と誰も手を入れていない伸びきった草木が埋め尽くすこの一画。
うちはの集落だ。


外に比べ幾分涼しく感じる街並みに入るといつもオレの顔は能面みたいに表情を失う。
歩いても歩いても、人の声も気配も全くないこの死に絶えた街がオレの家。
此処に他の住民達が住んでいた頃の記憶はオレの頭の中でもう殆ど霞んで消えかかっている。
かつて幼なじみと走った街道。
いつもにこやかに笑っていた駄菓子屋のおばさん。
近所の笑い声。
どれもみんな、本当にあったかどうかもわからないあやふやな記憶だ。


オレの生家はその集落の一番奥に建っている。
其処に向かうまで、オレはいつもこの映画のセットみたいな街並みを一人で抜けていく。
勿論家に着いても待つ人間は居ない。
それに対し、浮かぶ思いは悲しみなんて陳腐なものではない。そんなものはとっくに捨てた。
ただ、噛み締めるものはある。
オレは一人。
多分これから先もずっと、たった一人でこの家を守っていくのだ。






最後の曲がり門に差し掛かりオレはビクンと体を引きつらせて足を止めた。
家の門の前に、誰かが立っている。
オレはまだ視界に入らないその誰かが誰であるかわかっていて急に胸が高鳴った。
会いたくなんてなかった。
こんな気分のまま
それもこんなところで
あの男の顔なんて見たくもなかったのに。











「おかえりー」






オレの心と裏腹に気さくな声は笑みを含んでいて。
砂利を踏む音を添えて近付く男にオレは警戒心剥き出しの声で威嚇した。







「…アンタの家で待ってるんじゃなかったのか」


「待ってたら来た?お前」


「…」


「ね、当たりだ」





カカシはにっこりと微笑むと、迷い、黙って立ち尽くすオレとの距離を忽ち縮めてしまった。
外気に蒸れてすっかり温まった手提げを奪い、カカシは早く中に入れてくれとせがむ。
カカシが立っていた場所には無数の煙草の吸殻が散乱していた。
その数だけでどれだけの時間が此処で費やされていたのかがわかる。






「ねえ、早く中入れてよ。オレ夕べの任務明けから直ぐ此処に来ててさあ、もう待ちくたびれちゃった」


「…別に来てくれなんて頼んでねえだろ」


「喉渇いちゃったんだよ。水一杯貰えるとホント有り難いんだけど」


「…」


「頼むよ。もう脱水症状で死にそう」





ぎゅっと指の先を握られて驚いた。
確かにカカシの指は尋常じゃないくらい暑かったのだ。
あの、このあいだ夕方の図書室でオレの全身を弄った冷たい指が。
こんなに熱くなって、今、オレの指を。






「サスケ」





耳障りのよい低温が脳天に響いた時、オレは全身を硬直させた。
抱き締められるかもしれないと身構えて。
それなのにそれ以上体に触れて来ないカカシにオレは焦れていく。
待っても待っても、距離はずっと付かず離れずのまま。
腕を回されたら迷わず罵倒して突き飛ばしてやろうと考えているのに

これじゃ、まるで。





(アンタに触れられるのを 待ってるみたいだ)









「……水、一杯飲んだら帰れよ」





オレはぎこちなくそう答えてカカシを先導するように大きな門の扉を開けた。
カカシは一言「ありがとう」と告げると黙って後ろをついてくる。
ギィ、と重い扉が閉じられて外部との空間を遮断する。
暑い外気が扉に押されオレ達の足元で静かに舞った。



これでもう
此処から先はオレとカカシの二人きり。


誰にも見られない、誰からも干渉されない二人だけの空間の始まりだ。










 ***






玄関の鍵を開けて中に入ると意外に中は湿気を含んでひんやりとしていた。
此処暫くゲンマの家に身を寄せていたからオレ自身家の中に入るのは実にひと月ぶりだった。
長く閉じ込められた室内の空気を入れ換えようと奥に進む。
土間で待つカカシには「其処で待っていろ」と振り向かず一言だけ投げかけた。

オレは黙々と部屋の襖を開けて、暗い室内に射光を入れて外気を取り込んでいく。
雨戸まで閉め固められていた家の中は少しずつ明るくなっていく。
両親が寝室として使っていた奥の広間。
かつて兄と呼んでいた男が居た個室。
続き間になった客間。
家族が食事を取った、居間だった場所。

台所。此処は水場だから少し換気扇も回しておかないと。
少し渋くなった蛇口を捻り、管に貯まった水を出しておく。
流し台でうねる水を見ながら食器棚のコップを取り出して、オレは色々な葛藤に苦しんでいた。
軽くすすいだコップに水を貯めて、胸でつかえた息を飲みこむ。
こんな小さなコップに満たされる水の量なんてたかが知れてる。
その水を一杯。
たった一杯干したらカカシは此処から姿を消す。


それが約束だ。




呆けていた一瞬の隙にオレの体は拘束された。
玄関で待たせていた筈のカカシがいつの間にか背後に立ち、ぎゅっとオレの体を後ろから抱いて来たからだ。
倒れたコップが流し台の中で転げ回り中に貯めた水を撒き散らす。






「…好きだよ」


「…離せ…っ、」


「お前が好き」






そんな子供騙しの言葉を真に受けて、オレはがくんと膝を崩した。
めまぐるしい勢いで倒錯した感情が脳髄から醜い快楽を連れてオレの中を駆け巡るのを感じる。
有能な忍と名高い、普段オレの上官にあたる男からこんな風に熱く求められているという優越感。
遠い任地に赴き、今は戦場に居る恋人に向ける罪悪感。
駄目だと無碍にはねつけるのにこの男はそれでもいいとオレを欲してくる。
床に尻を付いて、上から抱き込んでくる大きな体から守るように小さく屈んで抵抗した。それが些細な抵抗だと知りながら。
がむしゃらに抱き込まれて、優しく囁く男の声に脳が揺れる。
オレは震える唇でひたすら駄目だ、止めてくれと馬鹿みたいに繰り返した。



駄目だカカシ。
本当に駄目なんだ。
本当にオレは今日、こんな風にアンタと逢うつもりじゃなかった。
アンタとの事は
たった一回だけ過ちを犯したあの日の事はなかった事にしてくれと、そう言おうとしてこの家にアンタを入れたのに。













(そんなの、詭弁もいいところだ)










「…カカシ…っ、」






無理矢理に顎を救われ、あの唇に口付けられる。
あの日から何度も思い出してはこの身を熱くしていたあの時と同じ接吻。
ふわりと鼻先に漂う煙草の匂いと口内に広がる苦味は今までオレの知らなかった味だった。
やめろ、と口を開いて更に奥まで犯される。
ゾクゾクとした快感が全身をひた走った。

やっと開放された頃、オレはだらしなく口元を開いて覚束無い呼吸を繰り返し
白痴のような呆けた面でぼんやりとカカシを見つめながら顔中をぐしゃぐしゃに濡らしていた。
いつの間に涙が出ていたのだろう。
カカシは少し悲しそうにオレを見つめて、捲り上げていたオレの服の裾を下げた。








「…ごめんね」


「………」


「オレの所為で酷いことされた?…ゲンマに」





カカシの口から出た名前に、呆けていたオレの意識はぱっと照明が灯されたよう鮮明になった。
オレは力を抜いたカカシの腕から逃れるようにしゃがんだまま後ずさって、行き止まりの流し台にドンと腰をぶつける。
隙間からほんの少しも肌が見えないようにと、服を下に伸ばして腹を
大きく開いた襟ぐりにカカシの視線を感じると其方に手を伸ばし、オレはカカシから目を背けた。
ゲンマとの情痕をカカシに見られるのが 辛くて。






「…知られてたみたい」


「……え…」


「今朝さ、偶然あいつに会って、―――…凄い顔で睨まれた。取り付く島もなかったよ」






さあっと脳が冷えていく。
カカシの切ない笑みを見上げて、ガクガクと顎の先が震え始めた。

ゲンマは知っていた。
オレと、カカシが
あいつに秘密で関係を結んでしまった事を。






「だから心配だったんだ。お前が何かされてやしないかって」


「…オレは…」


「こんなに酷い痕つけられて、―――怖かっただろ」


「………ちが、………これは、」






誤解だときちんと伝えなければならないのに、オレは口を噤んでしまった。
このまま黙っていたらゲンマは酷い男にされてしまう。
でも、言いたくなかった。
カカシに夕べの、まだ記憶の生々しい自分達の行為の事を少しでも語るのはどうしても嫌だった。
オレはどう言い訳していいかわからずに狼狽える。時間ばかりが経っていく。
やっと本当の事を伝えようと決意した時、カカシはオレに残酷な一言を聞かせた。







「オレなら絶対こんな事しないのに……」


「……」


「オレならもっとお前を大事にしてやれるのに―――」


「……カカシ…違うんだ、…あいつは別に…」


「…本当に、お前はこのままでいいの?サスケ」


「……」







オレはどうしてこの時に黙ってしまったのだろう。
オレの記憶からどんどんあいつの顔が薄らいでいく。
何時からオレ達はこんなに離れてしまったのだろうと、そんな事すら考え始めて。


もう、オレはあいつが何を考えてるのかわからないんだ。
オレ達は諦めすぎてしまったから。
少なすぎる会話も、全くあわせなくなった目も
隣で眠っている間ですら遠く距離を感じていて。

ゲンマが、カカシとの事を知っていると聞いてショックだったが
オレは何となくそんな気がしていた。
オレが浮気をしたとしてもゲンマはきっとオレを責めたりしない。
オレの逃げ道が完全に塞がるまで。
知っていても知らないふりをして無関心を装いながら、こうしている今もオレを試しているのだ。
稚拙なオレの嘘を本心では馬鹿にしながら、放っておいたらどうするつもりなのかと冷めた目で監視して。

アンタは酷いな、ゲンマ。
もうオレとは喧嘩をする気にもなれないのか。
明らかに間違ったオレの頬を跳ねて、いいから此方に来いと道を正してもくれないのか。
オレの頬にまた温かいものが伝う。
カカシはそれを指で拭い、そっと抱き締めてくれた。
胸に顔を埋めて不器用に息を吸うと、大分薄くなった煙草の匂いと一緒に戦地の埃の匂いが鼻に触れて切なくなった。










「…いいよ。ずっとこうしててあげる」


「………っ、…ぅ……っ」


「オレには、幾らでも甘えていいから」






頭の上から降り注ぐカカシの声に
感情の破壊したオレは声を上げて泣きじゃくった。

幼かったあの頃、母さんの立っていた流し台の前で
カカシはガキに戻ったオレを優しく抱きとめてくれる。
オレは、アンタと一緒に居てもいいのかな。
アンタと一緒に居ればオレはこんなにも甘やかしてもらえるのかな。


こんな風にオレを泣かせてくれる人間なんて、今まで誰も居なかったんだ。










 ***








妙に長くなってしまった。
サスケさんがかわいそうな子になってきましたね。
これはいけません。
もっとライトな感じでいきたかったのに←初めからヘビーでしたが


今回の話の流れについては色々「正解」があるのだけれど
読み取る楽しみを取り上げないようにあえて無言で閉じます。
これが一人称の面白いところだねえ。






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